世界華人百科

華人についての忘備録です

多言語話者を生み出すマレーシアの教育制度

私の友人知人のマレーシア華人は皆言語が堪能である。

当初、マレーシアについてよく知らなかった頃は一部の語学堪能な人間のみがそうなのだと思っていたが、どうやらそうではないらしい。

中国語(華語、マンダリン)、中国語方言(福建語、広東語など)、英語、マレー語など、4〜5言語が話せるというのはザラである。

その鍵となるマレーシアの教育制度について記したものである。

 

まず、小学校については基本的に民族語、母語での教育となる。

簡単に言うと「国民小学」はマレー語小学校、「国民型学校」は中国語小学校、タミル語小学校である。名前こそ分かれているものの両者ともに公立であり、共通の教育カリキュラムに則り授業が行われる。言語の臨界期仮説は12歳頃までと言われているので、小学校での授業を母語で行うのは理論的に見ても非常に望ましい。

また、華人やインド系の通う「国民型学校」であれど国語であるマレー語と英語の授業は必須科目である。

華人のほとんどは中国語小学校に通う為、マレーシア華人の中国語能力は口語のみならず読み書きも基本的に不便がない。

 

一方、中等教育(中学、高校)になると、公立の中学校は一本化され基本的に文系教科は国語であるマレー語で、理系教科は英語で授業を受けることになる。

日本では何年経っても「英語を学ぶ」であるが、マレーシアでは中学校の段階から皆が「英語で学ぶ」を経験するのである。(おそらくマレー語に理系の専門的な語彙が十分になかったことが原因と思われるが)

なお、中学高校でも華人は中国語を、インド系はタミル語を学ぶ母語の授業も引き続き行われる。大多数はマレー系イスラム教徒になるので、「宗教」の教科でイスラム教のことを学ぶそうだが、華人やインド系はこの時間には別で「道徳」の授業を受ける。

 

その後、このマレー語英語2言語教育体制は大学まで引き続き行われ、社会に出た後でも共通語として英語は広く使われる。

 

例えば、クアラルンプールに住む福建華人の言語習得及び使用場合は以下のようになる。

家庭:福建語

近所付き合い:広東語

小学校:中国語(マンダリン)

中学以降:マレー語と英語

 

それぞれの言語を単に「学ぶ」のではなく、実用言語として様々な場面でスイッチングしているわけである。これだけで5言語、さらに趣味で日本語などの外国語まで学ぶ人も多い。とりわけ様々な言語の音や文法に慣れているだけあって、日本語学習にも有利に働くようで日本語も非常に達者な方が多い。

 

なお、マレーシア華人のyoutuberは中国語で動画を作っている人が多く、動画の中でよく「独立中学」卒業と聞くことがある。これは私立の中華学校のことであり、経済的に完全に政府から「独立」していることからこのように呼ぶらしい。「独中」では教授言語は基本的に中国語である為、「独中」卒業者はマレー語が苦手な人が多い。

 

ただ、華人の中で私立の中華学校「独中」に進学するものはごく一部、5%以下である。大きな理由としては「独中」卒業だけではマレーシア国内大学に進学できず、就職含めその後の国内での進路が非常に狭まる為である。なお、「独中」卒業者の多くは台湾を始め中華圏の大学かシンガポールの大学に進学する。

 

分かりやすい資料を見つけたので、画像を貼っておく。

http://yokamoto.sakura.ne.jp/Malaysia_Education_System.pdf

 

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華人都市クアラルンプール

去年1月に初めてマレーシアを訪れた。首都クアラルンプールの発展ぶりに驚くと共に、多民族共生の多文化社会であることが非常に印象深く、マレーシアについて色々と調べるようになった。

 

クアラルンプールの街を歩いていて感じたのが、中華系住民が非常に多いということ。

マレーシアにおける各民族の割合は大体以下の通りである。(政府による2010年の人口センサス調査より)

国全体では約750万人の中華系国民を有することになり、海外華人全体においても相当な割合を占める。

 

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ブミプトラ(マレー人及び先住民族):67%

華人:24%

インド系:7%

 

ざっくりとマレー系が7割、中華系が2割、インド系が1割と把握していた。

 

しかし、首都のクアラルンプールでは非常に中華系の存在が目立ったのである。

東南アジアの都市にはどこにでも現地国籍の華人がおり、中華街もあるのだが、クアラルンプールでは一味違った。もちろんいわゆる「チャイナタウン」と通称される場所はあるのだが、それはあくまで商業区としての呼び名であり、チャイナタウン以外にも華人は広く居住している。その程度はクアラルンプール全体が巨大なチャイナタウンとでも表現してもよいほどに感じた。

 

クアラルンプール随一の繁華街ブギッビンタンはそれこそ華人だらけで、ジャランアローの飲食店のほとんどは華人が経営しているし、そこから1〜2kmの近い場所には華人市場があり、イスラム教徒とは分かれた市場で主に豚肉を初めとした精肉を卸しているような場所もある。

一方、チョウキット市場のようなマレー人居住区における市場においても、華人の店主は数多く見かけた。

 

華人2割というにはあまりにも多く、存在感がある。一体どれほどの華人がクアラルンプールにいるのか、調べてみた。

 

まず、マレーシアの州別の華人の人口割合である。

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華人の人口割合にかなり振れ幅があることがわかる。国全体の華人人口は約2割だが、その倍以上の割合、4〜5割なのがペナンとクアラルンプールである。

 

人口割合ではなく人数で見た場合、クアラルンプール首都圏の一部を為すセランゴール州は150万人近い華人を有しており、クアラルンプールと足し合わせるとなんと200万以上の華人がいることになる。また、マレー半島部最南の州であり、シンガポールに隣接しているジョホールにも100万を超える華人が居住。

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さらに、以下は各民族の人口割合を都市別で色分けした地図である。

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明るい緑色であればある程ブミプトラ(マレー人及び先住民族)が、赤色が濃ければ濃い程華人が多い。どちらでもない色、赤と緑の中間色である黄色に近ければ近いほどインド系が多いということになる。

 

特に華人割合が高いペナンを拡大してみる。

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ペナンは福建華人のイメージで通っている為、全体的に華人が多いことは予想できるが、その中でもジョージタウン中心部は8〜9割近くが華人であることを示している。また、この地図では対岸バタワース全体で色分けされているので分からないが、バタワースの大山脚地区(Bukit Mertajam)は全国で最も華人割合が高い行政区だそう。

 

さて、本記事の本題である。

クアラルンプールにおいて、犬も歩けば華人に当たる状態なほど華人が多いことを示しているのがこちらである。

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いくつかの区域はほぼ真っ赤になっており、華人の割合が8〜9割に上ることが分かる。ほとんどの観光客が訪れるブギッビンタンも真っ赤のエリアであり、住民はほぼ華人であることがわかった。隣接するSeputeh、Bandar Tun Razakも然り。

また、北西に位置するKepongというエリアも真っ赤でありほとんどが華人であることを意味している。

 

まとめ:マレーシアにおいて各民族は固まって居住する傾向が強く、クアラルンプール、ペナン、ジョホールバル、イポー、マラッカ、コタキナバル、クチンなど都市部においては華人の割合が高い。クアラルンプールとペナンの一部にはほぼ華人のみと言ってもよい地区がある。